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大規模修繕をきっかけに団地の未来を再考し、魅力ある団地にするための外断熱改修に成功!【後編】

多摩ニュータウンの自然豊かな環境に立地する「エステート鶴牧4・5住宅」(以下、エステート鶴牧)。白い低層の住戸がゆったりと並ぶ、全29棟、356戸の大規模団地です。この団地が、最大の大規模修繕といわれる3回目の大規模修繕工事を検討し始めたのは2011年。3つのパターンに分けて業者に見積もりを依頼した結果、資金が足りずに屋根の葺き替えなどの工事のみをすることに決まったのは、前回お伝えした通りです。しかし、そこに朗報が舞い込んできました。

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国交省の事業に応募すれば、補助金が!

IMG_7911舞い込んできた朗報とは、施工業者候補のうちの1社であった(株)長谷工リフォームからの、ある申し出でした。それは、国土交通省が行っている「省CO2先導事業」(現:サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型))への応募でした。省CO2先導事業とは、CO2の削減を推進するため、住宅やビルなどにおいて省CO2を実現するのに優れた住宅・建築プロジェクトを公募し、整備費などの一部を補助するというもの。これに採択されれば、総工費の3~5割を補助金で賄えます。

 

2012年9月20日に(株)長谷工リフォームから提案があり、応募期限が迫っていたため、急遽、外断熱改修した場合の様々な試算をして、1週間後には提案書を提出しました。採択の発表は約3ヶ月後。その間に、採択された場合と不採択だった場合の両方を想定して、当初予定していた屋根の葺き替え等のみの工事の業者選定など、準備を進めておきました。結果は、見事採用! それも補助額の満額である補助対象工事部分の5割が助成されることに決まったのです。

 

省CO2先導事業に採択されてから、1ヶ月半のスピード合意!

「実は、かなりの確率で採択されるはずだと私は踏んでいました。当時この事業に応募してくるのはほとんどが新築でした。しかし、既築のマンションこそ削減幅は大きく効果が高い。増え続ける中古マンションの省CO2改修事例として、国交省の政策にも十分に適うものでした」と花牟禮(はなむれ)さん。経験豊富な建築士だからこそ、「絶対にとれる」と先を見越して両輪で準備を進めることができたのです。

 

さて、それからは経理担当者が金融機関への融資を申請、大規模修繕委員会と理事会でそれぞれ様々な議案を承認。工事の仕様、費用、補助額、施工会社について住民説明会を開催し、その後、臨時総会で見事特別決議を成立させて外断熱改修工事の承認を得ました。採択が確定してからここまでで、何と約1ヶ月半。2回目の大規模修繕委員会に始まり、団地整理委員会、3回目の大規模修繕委員会などが粘り強く話し合いを続けてきた賜物でした。

 

外壁と屋根の外断熱改修工事をはじめ、電気の見える化や、各専有部分の開口部に内窓をつける工事などを含めて、総工費は約11.6億円。そのうち補助対象額は約8憶円で、その半分の4憶円を補助金で賄うことができました。さらに、将来の配管改修や震災に備え、手元資金を残すため、住宅金融支援機構から3.5億円の融資を受けました。加えて、その貸出金利1.26%に対して、東京都より1%の利子補給を受け、差し引き0.26%の金利で借り入れができました。

 

 

マンガや丁寧な説明の積み重ねが合意形成の秘訣

OLYMPUS DIGITAL CAMERAもちろん、この少々あわただしい決定に対して反対する住人も多少いました。そこで委員会では、臨時総会の直前まで各種説明会や広報紙を配るなどして説明を徹底。住人の中にイラストを描ける人がいたため、わかりやすいマンガを描いてもらい、理解をしてもらう努力をしました。その結果、臨時総会では9割以上の賛成を得て決議することができました。

 

前編でご紹介したスラブ下配管をスラブ上にする工事については、もちろんなるべく急いで行った方がいい工事ではあるものの、省CO2先導事業のタイミングを逃してしまうと外断熱改修ができなくなってしまうため、後回しとしました。「スラブ下の配管工事が先だろう」という反対意見も出ましたが、そのための費用の見積もりを出し、修繕積立金の中からその金額には手を付けずにとっておくことで住人の理解を得ました。

 

「補助金をもらうにはスピード感が大事です。毎年公募している事業ではありますが、まだやったことがない事例として採択されていると思うので、年を経るごとに条件は厳しくなる。合意形成でモタモタしているとタイミングを逃してしまうことになります」と花牟禮さん。それまで最低限の工事で大規模修繕の計画を進めていたところから考えると、まさに“大逆転”といえるような工事内容でのスピード合意でしたが、それまでの積み重ねが奏功したのでしょう。

 

 

 

外断熱マンションの住み心地は……?

図3さて、工事は無事2014年3月に終了し、すでに数年が経ちました。数戸の住人の協力を得て測定した、改修前と改修後の室内の年間温度推移の実測データを見てみると、改修前は外気の温度の影響を受けやすく、室内温度の変動幅が大きかったのですが、改修後は変動幅が縮小。年間の冷暖房消費電力量は、改修後の削減率が約3割、冷暖房費用は年間2万円弱も削減できた計算になります。住宅の環境性能を評価するシステムで評価してみると、大幅に機能が向上していました。

 

居住者へのアンケート結果でも、快適性が格段に向上したことがうかがえます。暖房時の冬の過ごしやすさ・満足度は55%から90%に向上、反対に結露への不満は59%から6%に、カビへの不満は52%から5%に減少していました。花牟禮さんのお宅でも、冬の明け方、暖房をしていない時間は10℃くらいだったのが18℃くらいになり、ベッドから起き上がるのが苦ではなくなったそうです。また、LD+2部屋(計33畳程)の室内をエアコン1台で暖めることができ、温度設定も23℃にしておけば十分だとのこと。外断熱改修の効果を身をもって実感しています。

 

住人の中に建築の専門知識を持った人がいたことで、検討の俎上に載せることができた外断熱改修工事。長い間自主管理をしてきたことで育っていたコミュニティと、理事や委員会に関わった住人たちの地道な努力が功を奏して、補助金を上手に利用した価値向上の大規模修繕を成功させることができました。その秘訣について花牟禮さんは、「大規模修繕を前に、例えば外部のコンサルタントが『外断熱改修をやりましょう』といっても、住人は納得しない。中に住んでいる人が住環境に対する意識をもって言い出すことが大事です。あとは、どれだけ意識を持った人たちを集め長期的な展望をもって進められるか。また補助金などの制度や優遇措置を積極的に活用するのも重要です」と教えてくれました。

 

 

図2※外断熱工法とは:建物躯体の外側全体を断熱材で包み込む断熱工法のこと。夏涼しく冬暖かい快適な家になるだけでなく、結露やカビの発生を抑制できるため、建物の長寿命化も適う。欧米では標準的な工法だが、日本のマンションは躯体の内側に断熱材を入れる内断熱工法が用いられることが多い。工事の際は、施工業者が部屋の中に入る必要がなく、外側からのみの工事で終わるため、住みながら進めることができる。

 

 

概要(取材年月:2019年02月)
  • 建物名:エステート鶴牧4・5住宅
  • 所在地:東京都多摩市
  • 階数 :地上2~5階建て
  • 総戸数:356戸(29棟)
  • 竣工年:1982(昭和57)年
  • 管理形態:自主管理
  • 管理会社: -
  • 総会開催:毎年5月
  • 役員数 :15名(内監事2名)
  • 役員任期:1年(輪番制、推薦方式、引継ぎの数ヶ月間残留する理事を数名確保)

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