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渋谷の中心街、築50年超のマンションを建替え。その道筋とは……?【後編】

渋谷駅から徒歩3分の立地に建つ昭和34年竣工のマンションが、深刻な老朽化と住人からの要望により、建替えによる再生を検討。紆余曲折を経て事業協力者を決定するまでに至るも、なんと建替え決議で不成立に。いったい何があったのでしょうか……。
建替え発案の経緯を紹介した前編に続き、後編では建替え決議で不成立になった理由と再生までの道のりをレポートします。

その他

総合設計制度と、渋谷区の地区計画

峰さん2006年に行った建替え決議が不成立となってしまった、美竹ビル。当時、新日鉄興和不動産(株)が提案した建替え計画は、総合設計制度によるものでした。総合設計制度とは、公開空地を設けるなどすることで、容積率や高さ制限の緩和を受ける制度のこと。美竹ビルは都市計画法が定める商業地域に立地していたため、総合設計制度の対象になっていたのです。そのため当時の計画案では、建物の高さを27階にし、足元に公開空地を設け、タワー式の車庫を設けるといった内容になっていました。

 

渋谷の中心地にある美竹ビルは、様々な人が行きかう道路に面しています。その中で、公開空地があることは、これまで享受してきたような住居としての静かさが損なわれるという意見がありました。また、内廊下方式とする計画では採光が取りにくいのではないか、タワー式の車庫の可否など、計画に疑問を唱える住人が多く、合意には至らなかったのです。

さらに、当時、建替計画委員会の委員だった峰さんや一部の住人たちは、ある理由から計画に反対していたといいます。

 

「実は、その時は渋谷駅周辺が大きく変わろうとしていた時期で、容積率の緩和なども盛り込んだ地区計画が持ち上がっていました。ちょうどこのビルもその地区にかかっていて、公開空地などを設ける必要がないそちらの計画に沿って設計した方がいいのではないかと思っていたんですよ」と峰さん。地区計画とは、07年に決定した「渋谷駅東口地区 地区計画」のことで、渋谷ヒカリエなどを含む地域において、土地の有効利用、安全で快適な歩行空間の確保などを目的としたものです。

 

容積率の緩和、免震構造も盛り込む

建替え前そこで峰さんたちは、新日鉄興和不動産にその旨を伝え、早速建替え計画を大幅に練り直してもらいました。そうしてできた案が、ほぼ現在の建物と同じ案。地区計画により、現状の360%から700%へと容積率の緩和を受け、地上17階地下3階建て、地上3階までに事務所と店舗が入り、4階より上を住戸とする計画です。

 

また、計画の中には「免震構造」も盛り込まれていました。今でこそ高層ビルには珍しくない免震構造ですが、それは東日本大震災をきっかけに増えたものです。それ以前の建物に免震構造が採用されるケースはまれでした。元々耐震性に問題があった建物だったこともあってか、住人の中には地震に対する思いが強い人が多かったそうです。それを受けて、テラス渋谷美竹では3階と4階の間に免震装置を設置した「中間階免震構造」を採用しています。ちょうど地下工事をしている最中に東日本大震災が起こったそうですが、それを受けて「やはり免震構造にしておいてよかったと思った」と峰さんはいいます。

 

08年の9月、地区計画案による建替え決議がようやく成立。ここに至るまでに、理事会や説明会、委員会など約120回の会合を行いました。さらに、その後も個別面談で要望を聞き、改めて理事会や説明会の場を設け、100回は会合を持ったといいます。「新日鉄興和不動産の担当者がたくさんの会合に同席してくれ、丁寧に説明をしてくれた。それは非常にいいことだったと思っています」と、元建替計画委員の戸田さん(仮名)も語ってくれました。

 

権利者の思いは十人十色。丁寧に寄り添うことで全員合意へ

図1渋谷駅から徒歩3分という都心の一等地、容積対象床面積が3.5倍以上に増えるという、建替え案件としてはこれ以上ない条件。40戸という戸数の少なさからも、合意形成は比較的容易だったのかというと、もちろんそんなことはありませんでした。40世帯あれば40の、もしかしたらそれ以上の思いがあるものです。

 

昔から住んでいる人、代替わりをしている世帯、賃貸に回していて実情がよくわからない人、40戸の中でも事情はそれぞれです。建物の形状として前部が3階建て、後部が6階建てになっていたため、前部や後部の低層階に住んでいる人にとってはエレベーターは「必要ない」と思えるでしょうし、内装をリフォームしたばかり、という人もいたでしょう。それらの意見を一つひとつ聞いていくうちに、予定が何度も先延ばしになったそうです。

 

全員一致での合意形成に至った背景には、事業協力者の努力もありました。「権利者の要望をすべて実現する」という思いで、できる限りの対応を行ったのです。まずは、権利者の意向調査を踏まえ多くのパターンから住戸を選択できるようにしました。間取りや設備・仕様などのプランも権利者一人ひとりと何度も打ち合わせを重ね、それぞれの思いを実現。また、高齢の住人が大半を占めていたため、それぞれの不安や不満にも丁寧に対応しました。それらのおかげで、2010年には無事に本体工事に着手することができたのです。

 

ところで、新しくなるマンションには、それ専用の管理規約や細則を制定する必要があります。理事会では使用細則などを決める委員を公募し、11年に新しい管理規約と細則の案を作成。12年に建物が完成し、翌年には入居開始と建替組合の解散をしました。入居後、テラス渋谷美竹の管理組合では、新入居者を含めて理事を選任しましたが、1年間は峰さんと戸田さんが理事長と副理事長を務めました。

 

最初の勉強会から10年以上の歳月を経て、200回以上もの会合を重ね、ようやく実現したマンションの建替え。当時をふり返り、「本当に大変だった」と戸田さんはいいます。時には女性ならではの情報網も駆使しながら、意思疎通を図ったそうです。元から住んでいた40戸のうち、仮住まいを経て、白亜のビルへと生まれ変わったテラス渋谷美竹に戻ってきたのは36戸。今でも気軽に声を掛け合える昔馴染みの顔を見ると、元理事のお2人はほっと胸をなでおろすということでした。

 

 

 【組合事業の流れ】

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概要(取材年月:2018年06月)
  • 建物名:テラス渋谷美竹
  • 所在地:東京都渋谷区
  • 階数 :地上17階建て地下3階建て
  • 総戸数:196戸
  • 竣工年:2012(平成24)年築
  • 管理形態:全部委託
  • 管理会社:(株)日鉄コミュニティ
  • 総会開催:毎年6月
  • 役員数 :11名(住宅管理組合10名)
  • 役員任期:2年(半数改選、輪番制)

マンションライフをサポートする関係団体(リンク)