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居住者同士が「とくい」を交換。遊びごころ満載の“アート”な活動

「とくいの銀行」は、お金のかわりにみなさんの「とくい」をあずかる銀行です。銀行があずかった「とくい」は、あずけた人同士で交換することができます――。これは、井野団地(茨城県取手市)内に設置されている「とくいの銀行」の紹介文です。同銀行の発行する「ちょとく通帳」に書かれています。

各種イベントその他

「とくい」を預け、ひきだし、参加する

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井野団地は、1969(昭和44)年の入居開始からすでに45年が経過し、居住者の高齢化が進むと同時に、空き住戸も増えています。そうしたなか「とくいの銀行」は、居住者同士がお互いに「とくい」なものを交換する新しいコミュニケーションの場として、2011(平成23)年に営業を開始しました。

仕組みはかんたんです。

1.とくいをあずける

団地居住者らが、自分の「とくいなこと」を「ちょとく票」に記入し、「とくい」を預けます。

2.とくいをひきだす

「とくい」を預けた人が、今度は集まった「とくい」のリストから、見てみたい、やってほしい「とくい」を選び、ひきだしを申し込みます。銀行員が仲介に入り、交渉が成立すると「とくい」の「ひきだしイベント」がひらかれます。

3.イベントに参加する

だれかがひきだして開催される「ひきだしイベント」や、銀行が主催するさまざまな企画に、参加することができます。

健康診断から読書会まで

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これまでに「団地保健室」「風呂敷の包み方」「堕落論」などのイベントが開かれました。

「団地保健室」は、元看護士の方が預けた「健康チェック」が、引き出されたものです。当日は、近隣にある診療所のスタッフの方がボランティアで協力してくれて、血圧、骨密度、体脂肪率などを測定し、それらの結果に基づいてカウンセリングが行われました。

「風呂敷の包み方」は、「とくい」を預けた方と引き出した方の自主企画として実現しました。とくいの銀行はほとんど介在せず、2人で日時を調整し、チラシも作製。当日は、会場に居合わせた人たちにも声をかけ、ティッシュの箱やペットボトル、スイカに見立てたボール、酒瓶の包み方などをレクチャーしました。

「堕落論」は、高校生が預けたとくいをもとに企画された読書会です。中高生のほか、主婦の方なども参加しました。

そのほかにとくいの銀行の主催で、普段は引き出されにくい「とくい」をまとめて引き出す「引き出そう会」を、年に1回程度実施しています。2014(平成26)年は、11月23日に開催し、「猫いそうマップづくり散歩」「平安時代の鬼ごっこ」「グライダー体験」などのとくいが引き出され、集まった人々がそれぞれのとくいを楽しみました。

とくいの引き出しに当たって、材料費などの費用が発生する場合には、引き出した人が実費を支払います。講師料などは特に発生しません。誰かのためにやってあげてもいい、ひきだされたらちょっとうれしい、そう思えるような個々人の「とくい」が預けられているからです。

とくいが引き出される会場としてよく利用されるのは、団地内のコミュニティカフェ兼アートスペース「いこいーの+TAPPINO」。ここは、市の高齢者福祉の施策のひとつでもある、高齢者を地域で見守る「お休み処」の機能も持っています。家賃の4分の3は市が負担し、団地自治会と民生委員、さらにNPO法人などによって共同運営されています。「とくいの銀行」もそのなかにあり、銀行員を務めているのは、地域住民のボランティアです。

生活には役立たない?! 実はアートな表現活動

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とくいの銀行が開催するイベントの内容は、生活に直接役立つものよりも、団地居住者らが楽しみながら参加できるユニークなものが多いという特徴があります。これについて銀行の活動をサポートする「取手アートプロジェクト」の事務局は、「きっちり目的を定めてしまうと、かえって居住者の負担になってしまうのではと考えました。本来必要ないプラスアルファの部分のほうが面白いし、いろんな人が関わりやすいはず」といいます。

ちなみに「取手アートプロジェクト」とは、取手市と市民、東京藝術大学の三者が共同で、1999(平成11)年より実施しているアートプロジェクト。当初はまちなかをつかった現代美術の公募展や、若手作家のためのオープンスタジオといった活動をしていました。その後、「郊外の日常に寄り添うアートプロジェクトのあり方」を模索し、あるアーティストが考案したのが「とくいの銀行」だったのです。当時の活動拠点が、団地内の閉店した銀行跡地だったことも発想のきっかけの一つでした。

発案者であるアーティストは、同銀行の頭取に就任。銀行発足当初は自らがみち行く人に声をかけ、とくいの“押し売り”ならぬ“押し買い”をして、「ちょとく」を集めたといいます。そのかいあって、今ではさまざまなとくいが預けられるようになりました。「民謡」「ゲーム」「恋の話のお悩み聞きます」「折り紙」「大正琴」「障子はり」「ベトナム料理」など、内容はバラエティに富み、まさに狙いどおりの展開です。

着実に居住者のなかに浸透している「とくいの銀行」ですが、その活動は「あくまでも表現活動」だと、取手アートプロジェクト事務局はいいます。それでもその自由な精神や遊びごころが、子どもたちを含む地域住民の積極的な参加をうながし、新しいコミュニティの場として定着しつつあることは間違いありません。

(写真提供:取手アートプロジェクト「とくいの銀行 井野本店」)

概要(取材年月:2014年12月)
  • 建物名:取手井野団地(賃貸)
  • 所在地:茨城県取手市
  • 階数 :4階、5階建て・89棟
  • 総戸数:2,173戸
  • 竣工年:1969(昭和44)年
  • 管理形態: -
  • 管理会社: -
  • 総会開催: -
  • 役員数 : -
  • 役員任期: -

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