mainView
図2 - コピー (2)

大切なのは“住人との情報の共有化” 第三者の助言も活用して、見事耐震化改修に成功!【後編】

一度は否決されたこともある耐震診断を経て、“さあ、さっそく耐震補強を”と思った矢先、提案された補強案でつまずいてしまった「ゼームス坂パークハウス」。その理由は、提案された案が“3住戸のベランダ側にブレースを入れる”というものだったからでした。ブレースは巨大で、工事をすれば、ベランダへの出入りに大きな支障がでます。該当する住戸にその条件をのんでほしい、というのは難しい話でした。
これまでのいきさつはこちら

その他

行き詰った補強案、アドバイスがヒントに

理事長の経験が最も長い蕪木さんが委員長を務めていた耐震化検討委員会は、耐震改修の方法について、もっと調査・研究する必要がある、と判断。「東京都防災・建築まちづくりセンター(以下、センター)」に相談したところ、階段室の壁を補強することでブレースなしで耐震化できるのではないか、との意見が出ます。この示唆は、のちに委員会にとって大きなヒントとなりました。

 

さらに耐震工事の実績があるゼネコン2社に、ベランダにブレースの入らない補強プランを依頼。営業費の名目で、無料にて提案してもらえたそうです。しかし、それらのプランは想定していた工事費の倍以上の金額……。資金面でも大きな課題が出てきてしまいました。委員会では、①修繕積立金が工事可能な金額になってから耐震改修を実施、②所有者から一時金を徴収、③不足分の借り入れ、④最も弱いピロティの補強だけを先行して残りは資金のめどが立ってから実施、なども検討しますが、どれも難しそうでした。

 

工事計画を再検討。特許工法で難しい条件をクリア!

図11そこで、これまでに耐震診断コンペに参加してもらった企業などに対し、設計受託の打診をすることに。条件として、耐震強度がIs値0.6以上になることはもちろん、予算内に収まることや工期のほか、専有部分に立ち入らずに工事をすること、各住戸へブレースを設置しない工事とすることなどを盛り込みました。その結果、「NPO法人耐震総合安全機構(以下、JASO)」からブレースを用いず、階段室の壁の補強と耐震スリットを中心とした補強案が提案されたのです。

 

この案は、センターからもらっていたアドバイスとも一致するうえ、以前の勉強会で区から派遣された耐震アドバイザーの、「耐震化では壁をつくったり厚くしたりするだけでなく、柱と壁の間にすき間(スリット)をつくるというような、一見弱くするようなことも効果がある」という話にも符合していました。委員会では、この案で行けると判断し、JASOを委託業者に決定しました。工事費に関しては、積立金1億円を見込んでいましたが、JASOの計画案がおおむねその範囲に収まることも決断の理由の一つでした。

 

もちろん、JASOの計画案と費用についても、センターから助言をもらっています。難しい条件を踏まえたうえでのリーズナブルな補強計画、との見解でした。JASOの提案した耐震スリットは「アワット工法(※)」という、切断の際に水ではなく泡を用いることで騒音や粉じんを抑え、壁を貫通させる必要がない施工性の高い工法で、「専有部分に影響しないよう」という委員会の条件を満たすものでした。それを採用することによって一部工費が跳ね上がっていたのですが、センターの見解では「アワット工法は特許工法なので、在来工法の5倍増となるものの、専有部分をいじらないメリットは大きい」とのこと。全体予算から見ても、センターの指摘には納得できました。

 

 

大事なのはコミュニケーションと、第三者のアドバイス!

たよりやっとの思いで工事が着工したのが2017年5月。耐震診断が否決されてから足掛け7年の長い道のりでした。その間、定時総会が6回、臨時総会1回、耐震診断と耐震設計、耐震工事についての説明会がそれぞれ1回ずつ、「耐震化検討委員会だより」は全7通、枚数にして12枚です。マンションに住んでいない区分所有者にもたよりを郵送していたためか、総会にわざわざ出向いて参加してくれた人もいました。

 

「やはり住人間のコミュニケーション、情報の共有化が肝だったと思います。委員や理事だけでなく、その他の住人にも関心を持ってもらうために、当初からの経緯をしつこいくらい説明した。ある説明会では『本当に委員さんたちがしっかりやってくれているので、すべてお任せしたい』と言われたのですが、『お任せではなく、皆さんにずっと関わってもらわないと困りますよ』と答えたこともありました(笑)」と蕪木さん。工事中も、ピロティ工事の際に駐車スペースの移動が必要になったり、図面にない謎のスラブを発見してしまったりと、いくつかのトラブルはありましたが、その都度委員会や理事会、管理会社と工事会社が協力して乗り切りました。

 

もちろん、利用できる区の助成制度は上限まで利用。結果、耐震診断に150万円、補強設計に250万円、改修工事に2,500万円の助成金が下りました。東京都主税局による固定資産税等の減免措置も利用。こういった制度の知識は区のアドバイザー制度やセンターからの助言が役に立ったといいます。「特にまちづくりセンターさんは、最初からずっと進捗を相談していたので常に第三者として適切なアドバイスをもらえた。また、住人の理解を得るのにも力になりました」と蕪木さん。11月に工事が完了した時、一番年の若い委員から「蕪木さん、やればできるものですね」と声をかけられたそうです。

 

工事が完了した後、参加者を募集して庭木の剪定をしたときのことです。蕪木さんは参加者から「耐震改修、本当にお疲れさまでした」と感謝の言葉をかけられました。「最初は何もわからず手探り状態でしたが、行政なども活用しながら勉強していくうちに少しずつ理解ができ、難しい課題にも結果が出せたので、委員の皆さんもやっていくごとに、⾯⽩さも感じるようになってきたようです」と蕪木さん。「建物というハードはもちろん、当初から培ってきた居住者間の意思の疎通=コミュニケーションというソフト面も、より頑強になった。このマンションに住んでいることが誇らしいです」と語ってくれました。

 

 

(※)アワット工法:耐震スリット工法のひとつ。一般工法では完全スリットにするため壁を貫通する必要があるが、アワット工法は部分スリットのため、室内側に30mmの躯体を残すことができ、内装工事が不要となり、居住しながらの施工が可能になる。ただし、すべての建物でこの工法を採用できるわけではないので、採用には慎重な検討が必要。

 

 

概要(取材年月:2019年07月)
  • 建物名:ゼームス坂パークハウス
  • 所在地:東京都品川区
  • 階数 :地上10階建て
  • 総戸数:63戸
  • 竣工年:1971(昭和46)年
  • 管理形態:全部委託
  • 管理会社:三菱地所コミュニティ(株)
  • 総会開催:毎年6月
  • 役員数 :10名
  • 役員任期:1年(輪番制、再任は妨げない)

マンションライフをサポートする関係団体(リンク)