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「地域防災に貢献したい」 住民の意思で津波避難ビルとなったマンション

東日本大震災から早いものでもう6年。しかし、あの津波の恐ろしい勢い、黒い水の壁が立ち上がって襲ってきたあの映像は目に焼き付き、今も忘れることができない方は多いと思います。津波被害では、「とにかく急いで高いところへ逃げる」ことが有効であることを身にしみて感じました。ところが、津波被害が予想される地域では、高い建物自体が少ないエリアも多くあります。そんな中で、市の「津波避難ビル」募集の声にいち早く手をあげた逗子市のマンションをご紹介しましょう。

防災・防火

市の募集に対していち早く反応。「当然協力すべき」の声が

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東日本大震災のあと、すぐさま津波被害の想定を見直し、対策を立てた自治体が多々ありました。

マンション管理組合でも、マンション内の防災やコミュニティについて考え始めたところが多くあります。その中で、自治体の呼びかけにいち早く反応し、居住者の合意を得て「津波避難ビル」に指定されたマンションがあります。逗子市にある「逗子パーク・ホームズ」です。

 逗子パーク・ホームズは、JR逗子駅から徒歩2分、なぎさ通り商店街の中にある10階建て総戸数35戸の小規模マンション。ほとんどの居住者が顔見知りで、すれ違えばにこやかな挨拶が交わされる、住む人たちの顔が見えているマンションです。

津波避難ビル指定のきっかけは、東日本大震災を受けて2013年春に逗子市が商業ビルやマンションなどに対して、津波避難ビルの募集をしたことでした。毎年夏場になると1日約3万人もの観光客でにぎわう逗子市。海水浴客が目指す逗子海岸はマンションから約1kmしか離れていません。しかし、東日本大震災を受けて見直された津波被害の想定では、市街地のほとんどで10mの津波が到達するというものだったのです。

「ここに10mの津波が来たら、建物の3階までは沈んでしまう。居住者は階段で上に逃げればいいけれど、商店街の人や観光客は困ってしまうんじゃないか、と思ったんです」と語るのは、理事長のAさん。逗子市の取り組みを知り、理事会を中心に「当然、協力すべきではないか」という声が上がったのだといいます。

居住者で一致団結。津波を想定した避難訓練を地域と一緒に

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逗子市の公共の建物は、市役所を含め3階建てなど低い建物が多いそうです。JR横須賀線の逗子駅周辺に商業ビルを含め数軒5階建て以上の建物があるものの、居住者だけでなく観光客までを避難させるには数が足りません。

「うちのマンションは商店街の中にあります。夏になるとマンションの前の道路をたくさんの人が歩いて海岸に向かうんです。もしもその時に津波が来たら、と想像すると恐ろしい。近くに背の高いマンションは2、3棟しかなく、当然うちのマンションが受け入れるべきだ、と考えたのです」とAさん。震災報道で、地域の日ごろからのつながりが避難に役立った話や、震災後に地域の絆が強まった話などを聞き、普段から地域で助け合う必要性を感じていたといいます。

 「地域に貢献したい」。その思いで理事会は結束。6月の総会で居住者にはかったところ、反対意見は一切なかったそうです。津波が来た際の一時避難所としてマンションを一般に開放、避難をする人は4階以上の共用廊下に誘導すること、地震はどんな時間帯に起きるかわからないため、その時にいる居住者が率先して誘導すること、など具体的に取り決めて、管理規約を変更しました。万一の場合は、顔見知りでない人もマンション内に出入りする可能性がありますが、「避難時にはドアに鍵をかければ問題ない」とAさんはいいます。

 

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また管理組合では、地元町内会と協同し、実際に居住者以外の人を避難誘導する防災訓練を年1回行っているそうです。その内容は、町内会からの参加者に避難者となってもらい、マンション居住者が外階段を開放して4階まで誘導するという、想定される津波避難の内容に即したものとなっています。

もちろん、津波避難ビルを募集した逗子市も、支援を行います。市とマンションとの協定締結後、防災倉庫のほか毛布140枚、アルミブランケット100枚、簡易トイレ30組とトイレ処理セット720回分、保存用ビスケット180食、飲料水144本、無線機(市と災害情報の送受信ができる)が支給されました。

しかし、市がこうした支援を用意しているにもかかわらず、津波避難ビルとして協定を結んだマンションは少ないのが現状だそうです。市の防災課では、駅周辺や逗子海岸沿いのマンションと交渉しているものの、協定締結に至ったのはまだわずか。たとえ屋上でも、住まいに不特定多数の人が入ってくることを不安に思う人が、少なからずいるそうです。そのため、夏場の海水浴客も見込んだ目標収容人数には足りていないといいます。

迅速な合意形成は、日頃のコミュニケーションの成果!

IMG_0521-1逗子パーク・ホームズでは、市からの支援により4階から10階の共用廊下に約140人が避難できる準備が整いました。救援物資が入った防災倉庫を外部避難者用として設置し、マンション居住者用には近々管理組合で予算を組み、防災用品を購入して別の場所に保管する予定です。

 「小さなマンションですから、みんなの顔が見えていれば合意形成も早い。今回は、震災のショックとそれを受けて見直された逗子の津波による浸水予測への危機感があり、地域に貢献する思いで一致団結できた」と話すAさん。普段から挨拶を大事にし、日ごろのコミュニケーションを心がけてきた成果でもあります。

 マンションの前の道路と外構の壁に緑色をした「津波避難ビル」の案内が貼られた逗子パーク・ホームズ。地域住民にとっても、心強い存在であるに違いありません。

概要(取材年月:2017年04月)
  • 建物名:逗子パーク・ホームズ
  • 所在地:神奈川県逗子市
  • 階数 :10階建て
  • 総戸数:35戸
  • 竣工年:2002(平成14)年築
  • 管理形態:委託管理
  • 管理会社:三井不動産レジデンシャルサービス(株)
  • 総会開催:6月
  • 役員数 :4名
  • 役員任期:1年(再任を妨げない)

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